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ひよこのお七夜

近頃しんちゃんとまぁちゃん(ヤギです)の人気が半端ない。平日にふらっと立ち寄って顔を見に来る人もいれば、週末ともなると10人以上の子供たちが入れ替わり立ち替わり戯れに来ることもある。近所の人たちもエサを持ってきてくださったり、ヤギをネタに世間話を広げたり、、、。そんな人界の喧騒をよそに、柵の中に新たに設置した切り株を遊び道具に軽やかなジャンプを披露するようになった二匹は、少し大柄になり、また冬支度のためか体毛も長くなり、秋の冷え込みにも負けずマイペースに今日も草を食んでいる。

 順風満帆なヤギに比べて、ニワトリは波乱万丈。

 チキントラクターなどで活躍してもらっていたニワトリ(モミジ)たちは、トラクターの隙間から入り込んだ野獣(その手口からキツネと思われる)によりどんどん数を減らされていき、モミジは1羽のみとなってしまった。烏骨鶏を入れていた鶏舎は作りがしっかりしているので、全く被害はなく、結局烏骨鶏12羽とモミジが同居している。もともとモミジが住んでいたビニールハウスは、モミジたちの気配がかすかに残る空虚さに飲み込まれてしまった。

滅びゆくモミジに対して烏骨鶏は秋のベビーブーム。17個の卵から次々とヒヨコが孵り、鶏舎が一気ににぎやかになった。


さて、その卵から13羽生まれた時点で、母鶏はヒヨコの世話にシャカリキになり、抱卵を放棄したので、孵らなかった卵を処分しようと巣箱の中を掃除したのだが、、、、、残った卵の一つが孵りかけだったことに気づいてしまったのだ。穴が開いていて、中からくちばしが覗いていた。卵の殻はすっかり冷え切っていたけれども、くちばしは暖気を求めて弱々しく呼吸している。そのくちばしの動きについつい卵の殻を少しずつ剥がして、冷たく湿ったそれを両手のひらで包んで温めてしまった。すると、弱々しかった体の奥から響く心臓の鼓動が少しずつ強く大きくなってきて、おおぅっと思っている間に「ピヨ」という声を上げたのである。さらに少し顔を上げて、つぶらな瞳でこちらを見てしまった。「あぁ、今刷り込まれちゃっただろうなぁ」と、責任と諦めを感じながら、このヒヨコを人工飼育することにした。

ヒヨコの世話で大切なのは保温である。小さい体では体温調節が難しいので、保温がうまくいかないと、夏でも凍え死んでしまうことがある。母鶏は夜間はほぼずっと、日中でも定期的に、自分の子供たちがその中で暖をとれるように羽毛を膨らませて地面にうずくまる。自分が同じことをしようとしても寝返りをうたない自信がないので、電熱球の助けを借りる。実は有精卵の人工ふ化を検討していたこともあり、一通りの器具はそろっていたのだ。だが、ヒヨコ用のケージを持っていないので急遽段ボールで作成。一晩明けてからは、廃材の木枠を使っての飼育が始まった。

初めは温度設定が気になってケージの横で寝袋で寝たりもしたのだが、日に日にしっかりしたヒヨコに育っていき、この頃は無茶な給餌もしたりしている。初日は立つことすらできなかったヒヨコが生後5日でこんな大物を喰らうようになってしまった。

順調に1週間たったので、遊びに来た子供の提案通り名前を付けることにした。オスかメスかわからないので、「ピヨ!」と名付け、性別が分かった段階で、オスなら「!」に「太」を、メスなら「子」を入れる予定。

収穫した稲の脱穀、来夏の作付け向けの土木作業、山の手入れ、麦の種播きなど、To doリストが目白押しな中、いきなりヒヨコの育児がトッププライオリティで日々の生活を形成している今日この頃である。