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ライムギ畑で捕まえて

 当舎では従来から緑肥としてライムギを育てていた。

 ムギと名前がついているものの中でも食用とされるのはコムギ、ライムギ、Spelt(古代麦と呼ばれるもの。これについてはまたいずれ)、カラスムギ/エンバクの4種であるが、ライムギはコムギの生育がある異様な貧しい土地や冷涼な気候でも育つ頑強な性質を持っている(その代わり穀物としての収量は少ない)。グルテンを生成しないが、少しだけ膨らむので黒パンなどに使われる。このライムギ、その旺盛な生育から秋から冬にかけて栽培して緑肥に使ったり、季節外れの夏に栽培してウリ科のウドンコ病予防に使ったりする。とても面白いのは、ライムギは小麦畑での雑草としてコムギに紛れるように選抜されたために形態がコムギそっくりだということ。まるで田んぼのタイヌビエのような輩だ。

 そんなライムギを刈取り、倉庫に保存していたところ、ある日クラフト材料として使いたいという奇特な方が現れた。なんでもフィンランドの伝統的な工芸品ヒンメリを作るというのである。

 フィンランドでは、冬にヒンメリ(天の意)を作り、冬至を祝うヨウルの大祭に飾るらしい。ヨウル(または、ユール)の大祭と言えば、イギリス・コーンウォールを舞台にした小説の中で、その幻想的な光景に魅了されたことを思い出す。大雪の降る中、樫の大きな丸太に火を灯し部屋に暖と光をもたらすのだ。もっとも日が短いこの日に燃やされる樫の薪は、太陽の復活と次の年の幸福への祈りとともに赤々と燃えるのが大変印象的だった。

 この光景の中にヒンメリが加わり、光を受けて煌めき、部屋の中にその影を投げかける、、、、、、いいんじゃないか?!と勝手な妄想を抱いて麦わらを提供したのが、昨秋。

 その後、当舎の麦わらで作られた巨大ヒンメリは、町の玄関口にそびえたつ建物で半年以上展示された後、栽培された圃場に帰ってきた。フィンランドの伝統に基づき、夏至の日に五穀豊穣を祈念して燃やし、天地に返すためだ。

 こうしたライムギとヒンメリを巡る旅を、動画にまとめてくださったので、是非見ていただきたく、ここにまとめておく。

 まずは、ライムギの収穫と脱穀。ここで脱穀の終わった麦が、ヒンメリに変身する((注)この麦刈りは2021年のもの。それ以降の映像でヒンメリ作成に使われているのは2020年のもの)。

 ヒンメリの制作過程はこちら。 素人は一段(12辺)でも頭がこんがらがるところを、この方は5段、6段、8段と小中大(いやむしろ、大、特大、巨大?)の3種類を作成された、、、。使ったライムギの切片の数は総計4200本(ちなみにn段の正八面体のヒンメリを作るためには、2n(n+1)(2n+1)本の切片が必要)。

 その巨大な作品群が幻想的に照らされて、和気町の玄関を飾る様。

 そして、半年の展示を終えて、天地に帰る様。

 ライムギがこんなに様変わりして、最後にははかなくも燃えていく様は、人間の生きざまにも似て、改めて見返すと大河ドラマを見通した気持ちにもさせられる。

 今回のライムギ提供やタイアップの記念として、作家さんから新たなヒンメリ(しかも基本形とは異なる素敵なデザイン!)を贈っていただきました。試行錯誤を経て、このヒンメリが鎮座した先は、なんと客室の床の間! 和芬融合の姿を是非見においでください。