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防虫と完熟のはざまで

いつの間にやら、盛夏。

前回の更新からひと月以上が経過してしまった。この間に、静耕舎では、多くのお客様をお迎えし、草刈りをして、トークショーに参加し、新たなイベント参加を決定し、草刈りをして、町営すもも園の運営をお手伝いし、トマトの出荷を始め、草刈りをして、近所の先達たちと今冬に炭焼きや狩猟にご一緒させていただくことを約束し、民泊仲間ができ、ヤギの貰い先を見つけ、草刈りをした。

長雨とそのあとの暑さは、畑の作物にも好影響であったが、雑草にもよく効いて、元気に生い茂っている。田舎暮らしの秘訣を一つ挙げろと言われたら、今なら「草刈り」と迷わずに答えるだろう。いや、もう一つあったな。虫除けである。

有機農法を採用しているわが畑では特に虫が多く発生する。おそらくここで防草などもしてしまうと虫が野菜のみを狙うようになり大きな被害が出るのであろうが、畦はともかく畑の中の草刈りも控えめにしているため、草にもたかってくれて野菜の被害は少ない。草の中には、カエル、カマキリ、クモなど捕食者たちも多く育っているため、厄介なカメムシやニジュウヤホシテントウ、ネキリムシ、セスジスズメ(蛾)も昨年ほどは多く見ないように感じている。

昔から虫による食害は甚大だったようで、この集落でも虫追いに関する伝統行事が残っている。7月24日の愛宕の火祭りがそれだ。この日夕刻になると、集落の人々がそれぞれの家から薪を持ち寄り、火を焚いて、その年の豊作を祈願するのだ。岡山には愛宕山の名がつけられた山が複数ある(ちなみに妙見山も複数あり、こちらも祭事が存在する)ので、愛宕信仰が根強かったものだと思われるが、今では和気町の中でこの行事を行う集落も、数少なくなったという。この焚火とともに、たいまつにも火を灯し田畑の合間をうねり歩く虫追いという行事も行われていた時代もあったようだ。

焚き火も一段落すると、屋内に入り,おもむろに宴が始まる。普段これだけの人数が集まることはまれなので、集落の一体感を高めるとともに、普段の世間話とはまた違った話題で盛り上がる。6歳の子から、87歳のおじいさんまでが自由に出入りし、飲み食いし、好きなことを言い放つ、そんな場だ。

少し調子に乗りすぎて、次の日は二日酔い。朝から出荷作業をする予定だったのが、起きたら日が高く昇っていたのはご愛敬。ふと思い返すと、集落の別の伝統行事を復活させないかという話で盛り上がっていたなぁ。獅子舞など独自の文化が息づくこの集落。受け継げるものは受け継ぎたいなぁと思った一夜であった。

さて、前述したようにトマトの出荷が始まった。主に直売所に卸しているので、収穫から食卓までの所要時間は、早いと数時間程度というのが直売所の魅力だ。これが農協経由だとどうしても数日かかる。

この差異が、収穫適期を変える。農協に出す場合だと未熟なトマトを摘んで輸送途中で熟させるのに対して、直売所では真っ赤な完熟品が求められる。しかしながら、完熟品は果皮も柔らかくなっていて、輸送や選果作業中の事故で傷つきやすいのも事実。しかも、畑の中でおいしく実るので、カラスや野獣(アナグマかハクビシンと思われる)、さらには虫に狙われやすい。鋭い刺し口を持ったカメムシがトマトを吸汁すると、その吸い口から果汁がにじみ出てそこから傷んでしまう。完熟品を出荷することを考えて、来年以降は栽培初期から防虫措置を取らなきゃなぁと、持ち越し事項として思案中である。